2010年 08月 31日
8月21日、青梅へ。 第1話では、2年前と今の映画看板の入れ替え探しについて綴った。 第2話では、レトロな町のレトロな喫茶店について綴った。 第3話では、「総天然色」について綴ってみた。 第4話では、「ふたつの鉄道員」について綴ってみた。 今回は「原題と邦題」について綴ってみたい。 いつぞや、呑々守殿と「最近の洋画の邦題は原題をカタカナに置き直すような安直な題名が多過ぎる。例えば、パイレーツ・オブ・カリビアン。配給会社の怠慢かな。『カリブの海賊』というよりも『パイレーツ・オブ・カリビアン』の方が今様なのかもしれないが...。因みに、昔、『カリブの海賊』という映画を見たような気もする...」というような話をしたことがある。 先般、久し振りの青梅散策で、懐かしい映画の看板の数々を眺めた。 冒頭の掲載フォトに見える通り、「終着駅」の原題は"Terminal Station"である("Stazione Termini"のイタリア語の原題もある)。 今であれば、邦題は「ターミナル・ステーション」となるのかもしれないが、やはり、「終着駅」の方が雰囲気がある。 それは、名画として「終着駅」という題名が聞きなれたものになっているということからだけではないだろう。 青梅市内を散策しながら、映画の看板に書かれた原題を見ていくと、「大いなる西部」は"The Big Country"、「失われた伝説」は "The Legend of the Lost"、原題を尊重しながら上手く邦題を付けたものだと感心するばかり。 「哀愁」の看板もあった。 原題は"Waterloo Bridge"。 この橋はロンドンにある橋だ。 今なら邦題は「ウォータールー・ブリッジ」と付けられるところであろうが、「哀愁」は原題とは全く懸け離れた邦題なるも、この題名なら日本人の琴線に触れること、間違いなしである。 配給会社の苦労が偲ばれる。 「橋」で思い出す映画に、「戦場にかける橋」もある。 原題は"The Bridge on the River Kwai"。 「クワイ河の橋」、或いは、「クワイ河にかかる橋」では迫力がない。 映画のストーリーを加味し、且つ、原題を尊重した、よき邦題だ。 話は反れるが、サイモン&ガーファンクルの名曲「明日に架ける橋」(原題"Bridge over Troubled Water")も見事な邦題だ。 この邦題を考えた人は映画「戦場にかける橋」をヒントにしたのかもしれない。 なお、映画では平仮名で「かける」、歌では漢字で「架ける」となっている。 筆者の好きな映画のひとつにアラン・ドロン主演の「太陽がいっぱい」(原題"Plein Soleil")がある。 これはパトリシア・ハイスミスの小説「才人リプリー」(原題"The Talented Mr. Ripley")を映画化したもので、1960年の作だ。 近年では、同じ原作で、1999年のマット・デイモン主演「リプリー」(原題""The Talented Mr. Ripley"")がある。 原作は同じながら、映画の結末は全く異なり、「太陽がいっぱい」の衝撃的なラストシーンからして、「太陽がいっぱい」が好きだ。 おっと、本ブログは映画評論ではなく、「原題と邦題」であった。 「太陽がいっぱい」の原題"Plein Soreil"は、直訳すれば「いっぱいの太陽」。 それをひっくり返し、「太陽がいっぱい」と名付けた邦題も絶妙である。 イアン・フレミングのスパイ小説を原作とする「007シリーズ」の邦題には面白い歴史がある。 シリーズ第1作の原題は"Dr. No"だが、邦題は「007は殺しの番号」であった。 原題通り、邦題が「ドクター・ノオ」であったなら題名を見ただけでは何のことか分からなかったであろうが、邦題の「007は殺しの番号」は、ショーン・コネリー扮する英国情報部員ジェームズ・ボンドが「007」のコードネームを持ち、殺人許可証を与えられていることを見事に表している。 シリーズ第二作の原題は"From Russia with Love"だが、邦題は「007 危機一発」であった。 「危機一発」の「発」は「髪」であろうとの物議を醸したこともあったが、「危機一髪」より「危機一発」の方が「007」の雰囲気をよく出しているように思え、これも配給会社の苦労、工夫が偲ばれる。 因みに、後年、第一作と第二作がリバイバル公開されたときには、「007 ドクター・ノウ」、「007 ロシアより愛をこめて」と、原題に準じたものとなった。 これは、「007 ゴールドフィンガー」(原題"Goldfinger")、 「007 サンダーボール作戦」(原題"Thunderball")、「007は二度死ぬ 」(原題"You Only Live Twice")、 「007 ダイヤモンドは永遠に」(原題"Diamonds Are Forever" ) など、シリーズを重ねるに従って、この映画の知名度が上がったことによるものだろう。 シルベスター・スタローン主演の「ランボー・シリーズ」の題名にも面白い逸話がある。 第一作の原題は"First Blood"だが、邦題は「ランボー」であった。 後に米国側では第一作の題名を"RAMBO: First Blood"に改めたとのことで、第二作以降も"RAMBO:First Blood Part II"(邦題「ランボー 怒りの脱出」)、"RAMBO III"(邦題「ランボー 怒りのアフガン」)と原題は"RAMBO"を使っている。 因みに、第三作から20年後の2008年に作られた「ランボー 最後の戦場」の原題は"RAMBO"で、第一作の邦題「ランボー」に"先祖返り"している。 日本の配給会社が考えた邦題が本家に大きく影響を及ぼしたことととなる。 冒頭、邦題「パイレーツ・オブ・カリビアン」は配給会社の怠慢と言ったが、では、あのミュージカル映画の名作「サウンド・オブ・ミュージック」も原題をカタカナで置き直したものであり、これも配給会社の怠慢かと仰る御仁もおられよう。 邦題が「音楽の響き」、「歌の響き」、或いは、「ドレミの歌」では気分が出ないし、「トラップ家物語」ではミュージカルっぽくない。 日本語の抑揚のない言い方ではなく、英語風に抑揚をつけて「サウンド・オブ・ミュージック」を声に出して言ってみると、やはり、原題をカタカタに置き直した邦題が最良ということとなろう。 映画を観るのも楽しい、洋画の原題と邦題を見比べるのも楽しい、映画ってホントにいいですね。 フォト:2010年8月21日/2008年10月25日 (完)
by kazusanokami
| 2010-08-31 22:55
| 青梅の旅
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